カーテン越しに朝日が差し込んできて、アルルは目覚めた。
ベッドの上で、起き抜けの猫のようにぐっと両腕を伸ばして、カーテンと窓を開ける。
今日という日にふさわしい、よく晴れた夏の空が広がっている。太陽と青空に目を細めていると、黄色くてちいさないきものがぴょんと飛び乗ってきた。
「ぐっぐぐー!」
枕元のカゴベッドで眠っていた相棒もお目覚めのようだ。指先でちょんと挨拶する。
「おはよ、カーくん! 今日はボクの16歳の誕生日だよ!」
「ぐぅ〜〜〜〜」
よくわからない踊りを披露しはじめるカーバンクルである。祝いの舞かもしれないし、単にそういう気分だっただけかもしれない。
ベッドを降りて、クローゼットへ向かう。いつもの青いワンピース。それに白い、……タンクトップだったか、編み上げのチュニックだったか。
「せっかくの誕生日だし、ちょっと違う服でもいいかなあ?」
なにしろ、ここ10年ほどはとにかくいろんな衣装が増えた。アルルといえば青と白、だったけれど、それ以外の色を纏う「お仕事」が多い。用意されるものはなかなかかわいいお洋服も多くて気に入ったりもしている。物語のお姫様の服とか、どこかの学校の制服とか、猫のきぐるみとか。魔導力にはなんの影響もないけど。
「ぐっぐ〜〜」
「あは、そうだね。今日はボクが主役の日なんだから、やっぱり青と白だよね」
相棒の言葉どおり、青のワンピースと白の組み合わせ、それに魔導アーマーを身につけた。
昨夜の残り物、というかどうにかこうにか残しておいたカレーでサンドイッチを作り、カーバンクルと二人で食べる。
今日はきっと、いろんな人に出会って、いろんな人にお祝いされる1日になるだろう。
去年の16歳の誕生日もそうだった。
「去年……去年はどうだったっけ」
サタンの塔で相変わらず妃がなんだかんだでぷよ地獄でめちゃくちゃな大騒ぎになった。おかあさんとおばあちゃん、それからスクールの友人たちとささやかなパーティをした。魔導学院でかわいい「後輩」の子たちと闇の魔導師のねぐらに誕生日ケーキを強奪しに行った。遺跡の探索中、ひとりきりで静かに日付を超える瞬間を計測していたし、恋人と共寝をしていた。向日葵の花束をたくさんもらったし、いつもの片胸アーマーですごしたし、見たことのないきれいなドレスを着せてもらった。
それだけではなく、思い出そうとすれば、他にもたくさん。いろいろな「こうだった」誕生日がどんどん溢れてくる。
そしてそのすべては、「在った」日だ。
「うれしいね、カーくん。たくさんの、すごくたくさんのひとたちがボクのお誕生日をお祝いしてくれるんだよ。ずうっと元気でいてね、だいすきって、言ってくれるんだ」
「ぐう〜〜……」
頭をやさしく撫でられて、猫なら喉をぐるぐる鳴らしそうな表情になるカーバンクルである。
「さ、行こうか。今日は忙しくなるよ。いつもみたいにね」
あらゆる世界で、すべての人に、出会ったことのない人にまでその誕生を祝われつづけてきた青と白の魔導少女は、今年もそうして過ごした。