考えます。
魔導物語というコンテンツに触れた人なら彼のゆらぎっぷりはもちろんご認識通りだと思うんですが、自分のためにこれを時代性から捉え直して、思うことを書き出してみます。
これは自分のため。
初登場から米光魔導時代
そもそもが「ただの女の子がダンジョン探索をする」というコンセプトで作られた魔導物語。1989年発行だそうです。
このころのエンタメはまだまだ男性向け女性向けみたいな垣根とか手付かずのエリアとかが多く、「男性向けにつくられたものを女性用に翻案する」「少女漫画の構成を少年漫画に取り入れる」だけで新規性がありました。
たとえば少し年代は下がりますが「魔法の天使クリーミィマミ(1983年)」などは、当時大ヒットしていたゲゲゲの鬼太郎の女の子版を作ろう、という企画コンセプトです。なので初期は不思議世界の行き来とか妖精が多くてアイドル始めるのはけっこうあとだったりする…… あとは聖闘士星矢を女子にしたセーラームーン、仮面ライダーを女子にしたプリキュアシリーズなどなど。
で、「女の子がダンジョン探索」という出オチともいえる企画で一本制作できた時代、その最初の敵としてのシェゾ・ウィグィィ。この時点だとただのアヤシイおにーさん、です。
米光さんが一作目の時点でなにをどれだけ構想していたのかは今や時の彼方ですが、「主人公に立ち塞がる人間形の障害物」くらいの存在でしかなかった、というのは全然可能性としてあるなーーと思います。
魔法使いのおじいさんとか魔女とかよりはイケメン(当時の語彙だとハンサムでしょうか)かなーくらいの。
んで、米光さんの好きな世界観はバロックに詰まり切ってますし魔導物語のモンスターの元ネタを見ても、ダークファンタジーがだいぶお好きだし、ファンタジーというより「これ妖怪じゃん」としか思えないケルト神話の「妖精」たちを好んでいるのもよくわかります。(本国のケルト神話の「妖精」、妖怪感がすごい)
タニス・リーの「闇の公子」に着想があるとのことで、ああ〜〜〜〜ダークファンタジーの女王として有名なお方ですよね〜〜〜〜という……
米光魔導には、JRPG的な「ゲーム的ファンタジー」の手前の、海外のハイファンタジーを戯画化したかのような気配が強く漂っています。
「指輪物語」の和訳本で、アラゴルンの名前が「馳夫」だった時代(あったんですよそういう時代)みたいな。魔法とモンスターはパラメーターの存在ではなく、遠野物語のような「整合性もルールもようわからんがなんかそういうもんが隣接した世界にはあるらしい」、みたいな。異界が夜の闇、霧の中のものだった時代。
米光シェゾはそういう世界の魔導師で、イラストレーターは天野喜孝とか米田仁士とかそういう、がっしりした「男性」で、耽美な存在で、人間だったことはあるかもしれないけど人間ではないんだなあ、という感じが強く、まあカプ厨としてはこのシェゾは恋愛とかしなさそうだなと思うもののあれはあれで、いいよね! という気持ちです。
[Z:当時の「いけてる美形キャラ」としてのシェゾ]
フィクションの美形は当時のスター、アイドルを反映します。
前述のクリーミィマミは誰がどう見ても全盛期の松田聖子だし、後続のマジカルエミは小泉今日子。余談ですがファーストガンダムのプラモデルって初期から2020年代に至るまで何度もいろんな型で発売されてるんですけど、全部「販売当時のグラビアアイドルと同じプロポーション」になってるのがおもしろいところ…… 理想のプロポーションの変化はファーストガンダムのプラモを並べるとわかる。
というのを置いておいて、1980年前後に人気だった「スター」を洋楽チャートなどで調べます。当時の洋楽スターは少女漫画に強い影響を及ぼしていたというのも有名な話。クイーンとかデヴィット・ボウイとか。
で、そのへんの時代の「外国人」って、異国の美しい手の届かない完璧な生き物、みたいな、今でいうエルフ的な(今かなあ)扱いで、シェゾもそういった「異界の美」みたいな存在で。古めのBLっていわゆるスパダリ攻め様って肩幅広くてみんな身長185センチ前後でみたいな感じじゃないですか。あと白泉社の漫画とかも。そういうのが理想だった時代。そことダークファンタジー趣味とコミカルさがミックスされてああなったんかな〜〜と思ったりしています。
また、1989年前後の創作物として無視できないのは「銀河英雄伝説」。
こちら1982年から1989年まで刊行されてたということで、ま〜〜ゲーム会社に入社するような人が読んでないわけないわけで、ラインハルトの影響もかなり強かったんじゃねえかなあ……と思ったりしています。
ラインハルト、天才で超美形(登場するたびに毎回毎回毎回地の文で美しさを表現してくる)、でも少年めいたところもある、みたいな…… 当時これを浴びた男も女も、ある種の美形キャラの理想系を彼に見たことでしょう。
なんか髪のウェーブ感も服装も似てるんだよな……特に黒詰め襟に銀色の細工のかんじが……
というわけで次記事「織田魔導シェゾ」について考える記事につづく。