ぷよぷよ みんなの夢をかなえるよ!?(角川つばさ文庫 芳野詩子)]



魔導物語履修するぞと決めてから「わくわくぷよぷよダンジョン決定盤」をいつか入手したいなと思ってて、ウェブショップであったりはするんですけどどうにも手が出にくい価格で、でもまあ縁があればいずれリアル店舗で見つかるかもしれない……積んでる作品山ほどあるし、一年くらいかけて探していこう……

と思っていたらいきなり近場のブックオフで引き当ててしまい確保しました。
ネットの相場の半額くらい。



で、そのブックオフで本記事タイトルも見つけて、まあセガのアーカイブは追わないつもりだったけどもつばさ文庫のもの読むの好きだし読んでみるか……と軽い気持ちで確保しました。




おもしろかったです。

私は児童向け小説や児童向けノウハウに漂う「大人が小学生に願う意図」みたいなのを読んで楽しむという斜めの楽しみ方をしてるんですけど、本書、「仕事できる女がきっちり仕事をしたうえで己の性癖も混ぜ込んだ」というかんじのあれを感じて非常に満足しました。

まず児童向け小説として非常によくできています。出版されてるから当然じゃないかと思います? いやーーーーーーーーー児童向け小説ってすんげえのあるんですよ。まじですんげえのが。低学年に合わせたからとかでないすんげえのが。まじで。

全体構成もさすがゲーム側に関わっているだけあって脚本構成がきっちりステップを踏んでつくられており(綺麗な五幕構成)、小説好きな少年少女がストレスなくそれこそゲームのテキストを読み進めるようにぐんぐん進んでいけるものであろうと思われます。

アミティ、りんご、アルルの三人娘がうまく構成されてて、アミティは「児童小説の主人公」としての役割を見事にやりきってました。目立ったとりえがまだなくて、憧れがあって、作中で挫折して立ち直って自分らしさで窮地を乗り越え、成長する。あまりにも見事な「主人公」でした。

りんごは大人の概念で説明したいことの翻訳者としてうまく機能していたし、あと、あの、アルル、あの、アルル。三人娘においては「過去の経験からアドバイスをする」という役割をこなしています、が。

「児童小説の主人公」ノルマすべてをアミティが背負ったことにより本作アルルは心置きなくシェアルしています。三人の中でも自立心が高いというか冒険の経験が多いことがよくわかる細かでたしかな描写、そして、闇の魔導師のあしらいかた……
確信しましたね、このシェアルは体の関係がある。児童書だけどある。絶対にある。

あとですね著者、詩子さん、詩子って呼んでいい? 呼ぶけど。
繰り返しになりますけど、詩子、「児童小説の主人公ムーブ」を全部アミティにやらせたことで、はい仕事しました!必要条件達成しました! といわんばかりにシェアルつっこんでる。いやアミティはいい主人公だったんですけど、あるじゃないですか漫画とかでも、あーー作者こっち気に入ってんだなあみたいな。

まずシェゾ登場時の描写がおかしい。いやおかしいことは書いてないんですが比較すると明らかに熱がこもってるんですよ。他のキャラクターはアルル含めて1〜3行程度で容姿と関係性の紹介をする形でさらっと進むんですけど、シェゾの紹介だけ6行使ってる。倍近くある。しかもことあるごとに動作に「背が高い」を入れ込むしその6行の中には「あたし(アミティ)は怖いと思うけどアルルは違うっていってる」みたいな説明すら入る。

この描写の違い、おねがいマイメロディのノベライズを思い出さずにはいられませんでした。マイメロノベライズ、アニメ版の脚本家が書いてるんですけど、作中で読者モデルもやる美女な主人公の姉の描写は「そういう仕事もしてる美人」程度でさらっと流してるんですけど、この人「クルミ・ヌイ」っていうキャラが大好きで、彼女が登場したとたんにやはり美貌の描写が突然走り出したんですよね。「男なら触れたいと思わずにいられないような唇」とかまで言ってる。姉は「美人という設定のキャラとして登場しています」程度の熱のない説明だったのに。

登場描写もそうでしたけどその後も注意してなのか必然なのかシェゾはほとんどアルルとしか会話しないし、シェゾがアミティをじっと見る描写があった際にアルルが目を逸らさせているような言動をしたりクライマックスではシェゾはアルルをかばったりという、細かいけれどしっかりと着実な「根」を感じるやりとりを埋めこんでいるんですよ。

あとセガシェのほぼ唯一の欠点である「言い間違い」、小学生にバレにくいだろうとふんでかなり攻めたこと言わせてる……

タイムラインの受動喫煙でぷよポップやべえとはきいてましたがなるほどこの女が……詩子が……

詩子、児童小説が担う最も重要なことをやってやがんな、と思いましたね。
児童小説が担う最も重要なこと、それは私の持論ですが、「児童の胸にいずれ芽吹く種を植えること」です。これは大人や将来、未来への憧れでもあり、登場人物の行動であったり、おいしそうな食べ物だったりドレスだったり冒険だったり、そういうものです。

詩子、次世代のシェアラーを育てようとしてる。間違いない。
この周到で念入りな「匂わせ」、多感な女子小学生は確実に拾う。
「アルルとシェゾって、もしかして、両思い?」みたいなこと考えて自由帳に自作漫画の連載始める。わたしにはわかる。



まあ妄言はともかくとしてよくできた児童小説を読むのは普通に趣味の一つなので、よいなーーとおもえて、よかったです。他にもあるみたいなので機会があれば。